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短歌研究文庫の『高野公彦歌集』を時折読んでいるのだが、
乗り越しの歌の最も早い例を見付けた。
歌集は『汽水の光』。
歌はこの歌。

・乗り越しし駅のベンチに何するとなく憩へれば旅のごとしよ

実に余裕のある歌で、
最近の歌とは少し趣きが違う。
結句の「旅のごとしよ」がいい。
普通はあわてふためくのだが、
偶には、こういう時間があってもいいかなという境地ではなかろうか。
今はもうまたしてもやってしまったという感じではないのかな。
でも、ぼくらにその武勇伝を語るときは、
随分楽しそうなのだが。
乗り越しは、ひょっとしたら、
高野さんの、生来の癖なのかもしれない。

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ゆるキャラ

2018/07/30

つい最近届いた
栗木京子さんの10番目の歌集『ランプの精』にこんな歌がある。

・ゆるキャラの運動能力高くなり跳んで走つて冬深みゆく

一読納得。
やたら元気なゆるキャラがいる。
ただ今年の夏の暑さには、ゆるキャラ諸兄姉も
きっとまいっていることだろう。
ところで、先日届いた別の歌集にもゆるキャラが詠まれていた。
「心の花」の清水春美さんの第一歌集『あした咲く花』(ながらみ書房)だ。
この歌集では、こんなふうにゆるキャラは詠まれている。

・いつのまに増殖したのかゆるキャラという新生物がテレビにあふれる

まあ、実際はテレビだけではなく、
ありとあらゆるイベントに彼らは登場している。
イベントでゆるキャラがいないと、寂しくなってしまうくらいだ。
岐阜県の多治見市は、夏の暑さが半端でないことで有名だが、
この町などは、暑くなればなるほどゆるキャラの登場回数が増す。
それが「うながっぱ」というゆるキャラ。
とにかくゆるキャラはわれわれの生活になくてはならない、
癒しの存在になりつつある。

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乗り越し

2018/07/19

「短歌往来」8月号の巻頭は、
高野公彦さんの「鰥・寡・孤・独」21首。
こんな歌がある。

・乗り越して下りし深夜の越谷をおしまひの「ん」の如くさまよふ

高野さんの乗り越しに関わる話は、何度も聞いたが、
越谷というのが驚き。
千葉の市川に帰らなくてはいけないのに、
全く逆の埼玉に行ってしまうのだから。
深夜の越谷に着いてしまった高野さんは、
その後どうしたのだろう。
いくら何でもタクシーで帰ることはないと思うが。
一度聞いてみたい。
もう一首、こんな歌もある。

・居眠りは健康によきことなれば乗り越し歌人高野某はよし

うーん、ほとんど居直り。
でも、ぼくも現役時代、大抵の会議は居眠りしていたから、
やはり居眠りは健康にいいのかもしれない。
職員会議でも、校長室での会議でも、
本当にすぐ寝てしまう。

ところで、ぼくはいまだに乗り越しをしたことがない。
滅多に酩酊しないからだと思う。
高野さんのように気持ちよく酔ってしまうと、
乗り越しが可能になるのだが、
ぼくは途中から頭痛がしたりして、
酩酊状態にはならないからだと思う。

それにしても今回の高野さんの歌は、
乗り越し歌人として面目躍如たるものだろう。
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昨日「2566日目」が届いた。
副題には「東日本大震災から七年を詠む」とある。
「塔」の梶原さい子さんが送ってくださった。
「99日目」から始まって、
これが8冊目になる。
実に地道な活動であるが、
大切な活動でもある。
被災地のことがどんどん忘れ去られてゆく中で、
被災地からのこうした発信がいかに大切なことかを改めて思う。
梶原さんがリーダーになって、
東北の「塔」の会員のみなさんが、
積極的に参加しているのは、
理想的な雑誌のあり方ではないかと思う。
この号の特集は、
「震災後、初めて詠んだ一首」。
11名が書いている。
その中で、佐藤涼子さんの文章を
特に興味深く読んだ。
佐藤さんが詠んだ歌はこの歌。

・東側何回見ても何もない 仙台東部自動車道路


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松平盟子さんのエッセイ集『真珠時間』(本阿弥書店)が昨日届いた。
「真珠時間」とは、いかにも松平さんらしい命名だ。
この本の94頁に、
来嶋靖生さんの次の歌が紹介されている。

・歌は無力でよいではないか蜻蛉島大和の国はすでに世になし

すごい歌だと思う。
また、歌の本質を突いている歌でもある。
ここまで言い切ることのできる歌人が、
戦後何人いたろうか。

来嶋さんのこの歌集を読んでいないことに忸怩たる思いが湧いてきた。
ぜひこの歌を載せている『硯』を読もう。
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