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志垣澄幸さんの第14歌集『鳥語降る』を読み返している。
こんな歌がある。

・鉄塊のやうに重たき広辞苑二つに割りてそれから捲る

志垣さんは今も紙の広辞苑を使っているのだと知り、
少々おどろく。
ぼくはあんな重たいものをいちいち取り出して引くのは、
肉体的にも時間的にもマイナスと考え、
ひたすら電子辞書の広辞苑を使っている。
志垣さんは、体力的に自信があるのか、
それとも意地なのか。
ただ引くための工夫は多分あるのだろう。
その一つが「二つに割る」だ。
そうすれば、右か左かどちらかを捲ればいい。

志垣さんの歌は、発想がユニークで読んでいて、
そう来たかと思う歌が少なくない。
例えば、この歌などは最初何を詠んでいるのか分からなかった。

・びつしりと人間を孕める太き胴梅雨の晴れ間の高空に光る

「人間」は「ひと」とルビが振ってある。
繰り返し読むと、旅客機だと気づく。

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前回の続き。

こういう歌がぼく好み。

・本の部屋に二つ始末の悪きもの箱無き茂吉茂吉無き箱

注目したのは「本の部屋」。
「本の部屋」とは何か。
もちろん書斎ではない。
ただ単に本だけが置いてある部屋が正解だろう。
マンションの一部屋が本の部屋になっているのだ。
多分、書棚に入らない本があふれて、
床に積みあがっているのだろう。
そこに、斎藤茂吉全集の箱や中身の全集がバラバラになって
あちこちに散らかっているという歌。
まあ、読んだ時に、きちんと箱に収めておけば、
こういうことにはならないが、
それぞれ事情があって、ばらばらになってしまうのだ。
さらに言えば斎藤茂吉全集は巻数が多いから余計に大変だ。
因みに、ぼくは斎藤茂吉全集は所持していない。
代わりに選集を持っている。
これだと、ばらばらになっても
戻すのにそんなに時間はかからない。
それにしても、
「箱無き茂吉茂吉無き箱」はすごい表現だ。
省略の極みというべきか。

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川本千栄さんの第四歌集『森へ行った日』を読む。
まずこの歌を見つけた。

・小学校消えてしまいぬ吊りスカートで逆上がりした時間空間

「吊りスカート」という言葉は知らなかった。
でも、どんなものかはよくわかる。
懐かしい記憶がよみがえってくる。
ぼくが卒業したのは豊田市立挙母小学校。
挙母小学校の校庭が浮かんでくる。
今の小学生のスカートはどうなのだろう。
娘が小学生の頃、どんなスカートだったか
全く思い出せない。

・エッフェル塔好きの私を不審がる夫と暮らして十五年経つ

「エッフェル塔好き」なんだ。
こんな感想しか浮かばないが、
夫婦の15年間に何かしら思うところがある。
因みにわが家は、今日で37年経ってしまったことになる。

酒に逃げる戦後ほどなき勤め人その類型にわが父もおり

ぼくの父親は酒に逃げることはなかった。
理由は単純で、やたらに酒に弱かった。
一合で泥酔状態になってしまう。
代わりに、ギャンブルに逃げた。
逃げまくった。
ぼくと妹の記憶の暗い部分は、
すべて父親のギャンブルに関わる。
ぼくも妹も、愛知県内のほとんどの
競輪場、競艇場、競馬場に行ったことがある。
毎日曜日、父は、ぼくや妹を連れて、
そういうところに向かうのだ。
連れていかないと母親から資金が出ないからそうなる。
見事な反面教師のおかげで、
成人後、ぼくはそういう場所に一度も足を踏み入れたことがない。
幼い頃の実に嫌な記憶がよみがえるからだ。

川本さんの歌は、なぜか、ぼくの記憶を刺激する。

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予約完了

2021/05/18

わが町は、昨日から、ワクチン個別接種の予約が始まった。
昨日の午前9時から、かかりつけ医に電話をかけ続けたが、
残念ながら一度もつながらず。
しかし、今日10時過ぎにようやくつながる。
私と家内は、同じ日に予約が取れた。
わが町の場合、
一回目の時に二回目の日程が決まるので、
多分、6月中に、二回目の接種が終わることになる。

それにしても、もう少し何とかスムーズにならないかと言いたくなる。
ただこれは言い出したら切りがないので、
この話題はここまで。
あちこちの歌会が中止になっているので、
実は、歌評をどんどん書かなくてはならないのだ。
文句を言っている場合ではないようだ。

とにかく一先ず安心。
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竹の子の歌

2021/05/14

昨日は、毎日文化センターの講座。
さすがに自粛される受講生が多い。
確かに700人を超えては、
誰しもヤバイと思うだろう。

講座に提出していただいた歌の中にこんな歌があった。

・親よりも高くなりたい竹の子は光を吸い込みしなやかに伸ぶ

そうか、竹の子は、親よりも高くなりたいのだと、
この歌を読んでいたく感心してしまった。
それと、このブログが「竹の子日記」だから、
余計に楽しくなった。
人数は少なくとも、
こんな歌をみんなで読み合うのはうれしい。
こんな歌もある。

・春キャベツ一枚一枚剥きゆきてキャベツ太郎がついに生れたり

剥いていったあとにあらわれるキャベツの芯を
「キャベツ太郎」と詠んだところがいい。
着想の妙というべきだろう。
もちろん、桃太郎に懸けていることは間違いない。

やはり歌は愉しく読まなくてはいけない。
そんなことを痛感した講座だった。
次は二週間後、さてどんな状況になっているのだろうか。




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今日から中日新聞夕刊の「中部の文芸」欄の短歌の
執筆者は松平盟子さんになった。
最初の段落を引用させていただく。

「今月から新たに本欄を担当することになった。現在は
関東に身を置くが、郷里は愛知県。中部圏の歌人の
活躍を知り歌集や歌誌を集中して読めるのはとても
嬉しい。」

今回の執筆の対象となったのは、
榑松文子さんの第一歌集『韻きあふ聲』と
冬道麻子さんの第五歌集『梅花藻』。
それぞれ丁寧に読み込んだことのうかがわれる文章で
それぞれの歌集の魅力がよく伝わる文章だ。
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四十九日

2021/05/03

昨日が母の四十九日だった。
1月の末に緊急入院して、
3月の初めまでその病院にいたが、
恢復の見込みなく転院して、10日後に亡くなった。
コロナ禍のため、入院中ほとんど面会できなかった。
同じような人が多くいることを思うと、
やはり今は非常事態だと思う。
別れの場をことごとく奪われてゆくのだから、
非常事態だと思うが、
人間はそういう場に直面しないと、
気付かないから、他人事のように日々を過ごしている。
そして、ある日突然足をすくわれる。
そうすれば気づく。

母は昭和2年生まれだから、まあ長生きとはいえるかな。
若い時には、米軍機の狙撃を受けたという話をしてくれた。
豊田自動織機で働いていた頃だ。
昭和19年から20年の頃だと思う。
そして、結婚。
25年にぼくが生まれた。

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「まひる野」5月号を読む。

つくづく、窪田空穂、窪田章一郎への敬愛にあふれた雑誌だと思う。

広坂早苗さんの歌。

・洋菓子屋マリエのクッキー朝戸出の鞄にしまふ今日の励みに

マリエはかつてはよく通った。
ケーキもクッキーもおいしい。
この歌を読んでまた訪ねたくなった。
我が家から車で30分程度かかる。

後藤由紀恵さんの歌。

・天草ゆ名古屋を経由し練馬まで届きしデコポン大事にいただく

なぜ「名古屋を経由」と詠んでいるのか。
多分、名古屋の実家に届いたデコポンのおすそ分けに
あずかったということなのだろう。
「天草」も「名古屋」も詠みたかったということなのだろう。

小島一記さんの歌。

・中間管理職我れの苦悩をブックオフの岩波文庫の緑は癒す

丸善ではなく、ブックオフというのが今風。
「岩波文庫の緑」と詠んでも、
昨今の若い人には何のことか分からないのでは。
そもそも文庫と新書、単行本の区別のつかない
学生は普通にいるから。
この「岩波文庫の緑」は、はたして小説なのか歌集なのか、
はたまた詩集なのか。
『窪田空穂歌集』が順当かな。
あるいは、『北原白秋歌集』。

相変わらず固有名詞に刺激されるわが短歌読みだと
つくづく思う。


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